個人宅 訪問診療導入事例「家族の不安を調整し、本人の希望に沿った在宅療養を実現した終末期膵がんの事例」
2026/09/08 (Tue) 07:50
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ちくさ病院 メールマガジン
vol.1760
当院の個人宅における訪問診療の事例紹介です。個人宅での訪問診療ご紹介の参考にしていただければ幸いです。
要点サマリー
腹膜播種・肝転移を伴う膵体部がんにより積極的な抗がん治療が困難となった72歳男性に対し、本人の「最期まで自宅で家族と普通に暮らしたい」という希望を踏まえて訪問診療を導入した事例である。悪性腸閉塞に対する手術後も全身状態や食事摂取量の改善は限定的であったが、家族はストーマ管理や急変時対応に強い不安を抱えていた。退院前から訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、病院が緊急時の対応方法や役割分担を具体的に共有し、在宅では疼痛管理やストーマ管理を継続した。ケアマネジャーにとっては、本人の在宅療養希望だけでなく、それを支える家族の不安を具体的な支援体制に置き換えていくことが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:72歳・男性居住地:名古屋市緑区世帯構成:親子キーパーソン:妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割介護保険:要介護5
診断名
・膵体部がん(腹膜播種・肝転移)・悪性腸閉塞・がん性腹水・がん性疼痛
導入の背景
膵体部がんと診断され、大学病院で化学療法を継続していた。一時的に腫瘍縮小がみられたものの、その後は病勢が進行し、腹膜播種と肝転移を認めた。
さらに腹部膨満感や嘔気が増悪し、悪性腸閉塞を発症した。入院のうえ消化管バイパス術を受けたが、全身状態の改善は限定的で、食事摂取量も著しく低下した。主治医からは積極的な抗がん治療を継続することは困難であり、今後は症状緩和を中心とした治療方針が説明された。
本人は、病院では十分に休めず、できる限り自宅で家族とこれまでと同じように過ごしたいとの意向を示していた。
一方、妻と長男夫婦は、急変時の対応やストーマを含む医療的管理を自宅で行えるのかについて強い不安を抱えていた。特に長男夫婦は共働きであり、日中の介護は妻が中心となるため、妻の負担も大きな課題であった。
退院前に病院、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーが参加して支援体制を確認し、緊急時の連絡方法や必要時の往診、症状緩和の方法について具体的に共有した。家族も支援者へ相談しながら介護できることを理解し、本人の希望を尊重して在宅療養へ移行することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、定期的な診療に加えて必要時に往診できる体制を整え、訪問看護と連携しながら全身状態、腹部症状、食事摂取状況、疼痛などを継続的に確認した。
がん性疼痛についてはオピオイドを調整し、本人の苦痛をできる限り軽減できるよう対応した。ストーマについても訪問看護と連携して状態を確認し、家族のみで管理を抱え込まない体制とした。
食事摂取量は少なかったが、栄養量を確保することだけを優先するのではなく、本人が食べたいものを少量でも楽しめるよう支援した。
妻は当初、夜間の急変を心配し、常に緊張した状態で介護を行っていた。しかし、実際に訪問看護師への電話相談や医師による臨時往診を利用することで、自分だけで判断する必要はないという安心感につながった。
また、長男夫婦にも病状や今後起こり得る変化を共有し、家族間で療養方針に大きなずれが生じないよう支援した。
本人は自宅で家族と過ごし、庭を眺めるなど、本人らしい日常を維持することができた。病院での治療を継続することだけではなく、残された時間をどのように過ごしたいかという本人の希望を中心とした療養生活につながった。
医療対応の詳細
主病
膵体部がん(腹膜播種・肝転移)
対応内容
・がん性疼痛の継続的評価とオピオイド調整・悪性腸閉塞後の腹部症状の観察・がん性腹水による症状の確認・食事摂取量および全身状態の評価・ストーマ状態の確認と訪問看護との連携・必要時の臨時往診・本人の希望を踏まえた緩和ケア・妻および長男夫婦への病状説明・急変時の連絡方法と対応方針の共有・在宅療養継続に向けた多職種連携
医療処置
・ストーマ管理・オピオイドによる疼痛管理
支援のポイント
・本人が自宅療養を希望していても、家族が何に不安を感じているのかを具体的に確認する・退院前から訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、病院で役割分担と緊急時対応を共有する・医療処置が必要な場合は、家族だけで管理するのではなく、訪問看護など専門職が介入できる体制を整える・主介護者が一人で急変判断を抱え込まないよう、夜間や休日を含めた相談方法を明確にする・終末期では栄養量のみを目標とせず、本人の楽しみや希望も踏まえて食事を支援する・同居家族でも就労状況によって介護可能な時間は異なるため、実際に誰がいつ支援できるかを確認する・本人と家族の気持ちは変化する可能性があるため、療養場所や治療方針について繰り返し確認する
考察
本症例は、本人には明確な在宅療養希望がある一方、家族が急変対応や医療的管理に強い不安を抱えていた事例である。
終末期患者の在宅移行では、本人が「家に帰りたい」と希望していることだけでは、在宅療養を安定して継続できるとは限らない。特に主介護者が医療処置や急変対応への不安を抱えている場合、その不安を単に励ますのではなく、「誰に連絡するのか」「誰が来てくれるのか」「どこまで家族が行うのか」を具体化することが重要である。
本症例では、退院前から多職種が関わり、緊急時の相談や臨時往診、ストーマ管理などについて役割を明確にした。さらに、実際に訪問看護への相談や往診を経験したことが、妻の「自分一人で介護している」という感覚を軽減することにつながった。
ケアマネジャーにとっては、本人の希望と家族の不安を対立するものとして捉えるのではなく、家族が何を不安に感じているのかを具体化し、それを医療・看護・介護サービスで一つずつ補うことが重要である。こうした調整が、本人の希望に沿った在宅療養を支える基盤となる。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科・病態・症状:がん・世帯構成:親子
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基本情報
年齢・性別:72歳・男性居住地:名古屋市緑区世帯構成:親子キーパーソン:妻(同居)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険1割介護保険:要介護5
診断名
・膵体部がん(腹膜播種・肝転移)・悪性腸閉塞・がん性腹水・がん性疼痛
導入の背景
膵体部がんと診断され、大学病院で化学療法を継続していた。一時的に腫瘍縮小がみられたものの、その後は病勢が進行し、腹膜播種と肝転移を認めた。
さらに腹部膨満感や嘔気が増悪し、悪性腸閉塞を発症した。入院のうえ消化管バイパス術を受けたが、全身状態の改善は限定的で、食事摂取量も著しく低下した。主治医からは積極的な抗がん治療を継続することは困難であり、今後は症状緩和を中心とした治療方針が説明された。
本人は、病院では十分に休めず、できる限り自宅で家族とこれまでと同じように過ごしたいとの意向を示していた。
一方、妻と長男夫婦は、急変時の対応やストーマを含む医療的管理を自宅で行えるのかについて強い不安を抱えていた。特に長男夫婦は共働きであり、日中の介護は妻が中心となるため、妻の負担も大きな課題であった。
退院前に病院、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーが参加して支援体制を確認し、緊急時の連絡方法や必要時の往診、症状緩和の方法について具体的に共有した。家族も支援者へ相談しながら介護できることを理解し、本人の希望を尊重して在宅療養へ移行することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始後は、定期的な診療に加えて必要時に往診できる体制を整え、訪問看護と連携しながら全身状態、腹部症状、食事摂取状況、疼痛などを継続的に確認した。
がん性疼痛についてはオピオイドを調整し、本人の苦痛をできる限り軽減できるよう対応した。ストーマについても訪問看護と連携して状態を確認し、家族のみで管理を抱え込まない体制とした。
食事摂取量は少なかったが、栄養量を確保することだけを優先するのではなく、本人が食べたいものを少量でも楽しめるよう支援した。
妻は当初、夜間の急変を心配し、常に緊張した状態で介護を行っていた。しかし、実際に訪問看護師への電話相談や医師による臨時往診を利用することで、自分だけで判断する必要はないという安心感につながった。
また、長男夫婦にも病状や今後起こり得る変化を共有し、家族間で療養方針に大きなずれが生じないよう支援した。
本人は自宅で家族と過ごし、庭を眺めるなど、本人らしい日常を維持することができた。病院での治療を継続することだけではなく、残された時間をどのように過ごしたいかという本人の希望を中心とした療養生活につながった。
医療対応の詳細
主病
膵体部がん(腹膜播種・肝転移)
対応内容
・がん性疼痛の継続的評価とオピオイド調整・悪性腸閉塞後の腹部症状の観察・がん性腹水による症状の確認・食事摂取量および全身状態の評価・ストーマ状態の確認と訪問看護との連携・必要時の臨時往診・本人の希望を踏まえた緩和ケア・妻および長男夫婦への病状説明・急変時の連絡方法と対応方針の共有・在宅療養継続に向けた多職種連携
医療処置
・ストーマ管理・オピオイドによる疼痛管理
支援のポイント
・本人が自宅療養を希望していても、家族が何に不安を感じているのかを具体的に確認する・退院前から訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、病院で役割分担と緊急時対応を共有する・医療処置が必要な場合は、家族だけで管理するのではなく、訪問看護など専門職が介入できる体制を整える・主介護者が一人で急変判断を抱え込まないよう、夜間や休日を含めた相談方法を明確にする・終末期では栄養量のみを目標とせず、本人の楽しみや希望も踏まえて食事を支援する・同居家族でも就労状況によって介護可能な時間は異なるため、実際に誰がいつ支援できるかを確認する・本人と家族の気持ちは変化する可能性があるため、療養場所や治療方針について繰り返し確認する
考察
本症例は、本人には明確な在宅療養希望がある一方、家族が急変対応や医療的管理に強い不安を抱えていた事例である。
終末期患者の在宅移行では、本人が「家に帰りたい」と希望していることだけでは、在宅療養を安定して継続できるとは限らない。特に主介護者が医療処置や急変対応への不安を抱えている場合、その不安を単に励ますのではなく、「誰に連絡するのか」「誰が来てくれるのか」「どこまで家族が行うのか」を具体化することが重要である。
本症例では、退院前から多職種が関わり、緊急時の相談や臨時往診、ストーマ管理などについて役割を明確にした。さらに、実際に訪問看護への相談や往診を経験したことが、妻の「自分一人で介護している」という感覚を軽減することにつながった。
ケアマネジャーにとっては、本人の希望と家族の不安を対立するものとして捉えるのではなく、家族が何を不安に感じているのかを具体化し、それを医療・看護・介護サービスで一つずつ補うことが重要である。こうした調整が、本人の希望に沿った在宅療養を支える基盤となる。
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