個人宅 訪問診療導入事例「介護を抱え込む夫の負担に配慮しながら、進行大腸がん患者の在宅療養体制を構築した事例」
2026/09/30 (Wed) 07:50
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ちくさ病院 メールマガジン
vol.1773
当院の個人宅における訪問診療の事例紹介です。個人宅での訪問診療ご紹介の参考にしていただければ幸いです。
要点サマリー
多発肺転移、肝転移、腹膜播種を伴う上行結腸がんにより、全身倦怠感、食欲低下、がん性疼痛が進行した74歳女性に対し、通院負担の増大を契機として訪問診療を導入した事例である。本人は訪問診療への移行を「治療を諦めること」と受け止め、当初は抵抗感を示していた。また、夫は食事、服薬、排泄、入浴などの介護をほぼ一人で担い、支援を受けることにも消極的であった。在宅医療では疼痛管理や症状緩和を行うとともに、訪問看護、訪問介護、福祉用具を組み合わせ、夫の疲労状況や休息確保にも継続的に介入した。ケアマネジャーにとっては、介護力が高く見える家族ほど抱え込みを見逃さず、限界に達する前から段階的にサービスを導入することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:74歳・女性居住地:名古屋市瑞穂区世帯構成:夫婦のみキーパーソン:夫(同居)
保険・福祉情報
医療保険:国民健康保険3割介護保険:要介護3
診断名
・上行結腸がん・多発肺転移・肝転移・腹膜播種・がん性疼痛
導入の背景
体重減少を契機に精査を受け、上行結腸がんと診断された。手術後に化学療法を継続していたが、その後、多発肺転移、肝転移、腹膜播種を認めた。
複数の抗がん剤治療を継続したものの、病状の進行に伴って全身倦怠感や食事摂取量の低下がみられ、外来受診のたびに強い疲労を感じるようになった。
本人には、病院へ通院することで治療を継続したいという思いがあり、訪問診療への移行には当初抵抗があった。訪問診療を利用することで病院から見放されるのではないかという不安もみられた。
一方、同居する夫は食事の準備、服薬管理、排泄介助、入浴介助などをほぼ一人で担っていた。介護への責任感が強く、自身で対応できる限りは外部サービスを利用せずに支えたいという意向があったが、ケアマネジャーからは介護負担の増大が懸念されていた。
病状進行によって通院そのものが本人の大きな負担となったため、訪問診療は治療を中止するためのものではなく、自宅で必要な医療や症状緩和を継続するための方法であることを説明した。本人・家族の理解が得られ、在宅療養へ移行することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始時には、食欲低下、全身倦怠感、体重減少、がん性疼痛がみられ、腹膜播種に伴う腹部膨満感によって食事摂取量にも日ごとの変動があった。
定期的な訪問診療に加えて訪問看護、訪問介護、福祉用具を導入し、本人の症状管理と生活支援を多職種で行う体制を整えた。
病状の進行に伴って疼痛が増悪したため、オピオイドを導入し、症状に応じて調整した。本人・家族には効果や副作用について説明し、不安を確認しながら疼痛管理を進めた。また、必要に応じて点滴による症状緩和も行った。
同時に、夫の介護負担についても継続的に評価した。夫は自ら支援を求めることが少なかったため、訪問時には本人の状態だけでなく、夫の睡眠や疲労、介護の負担感についても確認した。
介護負担が過度に集中しないよう、訪問介護の活用、休息時間の確保、ショートステイの検討、別居する長男との役割分担などを提案した。
訪問診療導入後は、通院に費やしていた体力を自宅で過ごす時間に充てられるようになった。また、夫にとっても体調変化時に医療者へ相談できる窓口が明確となり、在宅療養を家族だけで支える状況から、多職種で支える体制へ移行することができた。
医療対応の詳細
主病
上行結腸がん(多発肺転移・肝転移・腹膜播種)
対応内容
・がん性疼痛の継続的な評価・オピオイドによる疼痛コントロール・食欲低下、全身倦怠感、腹部膨満感の評価・食事摂取量および栄養状態の確認・必要に応じた点滴による症状緩和・訪問看護と連携した全身状態の観察・訪問介護、福祉用具を含めた生活支援の調整・夫の介護負担および休息状況の確認・本人、夫への病状説明と療養方針の共有・長男を含めた家族内の役割分担の検討
医療処置
・オピオイドによる疼痛管理・点滴
支援のポイント
・介護を熱心に担っている家族ほど、本人から支援を求めない場合があるため、介護者の疲労や睡眠状況まで確認する・「まだ家族でできている」という状況でも、今後の病状進行を見据えて早期からサービス利用を検討する・訪問診療への抵抗がある場合は、本人が何を失うことに不安を感じているのかを確認する・訪問診療を治療中止と結び付けず、自宅で必要な医療を継続する方法として説明する・本人への医療だけでなく、主介護者の休息確保も在宅療養継続に必要な支援として位置付ける・別居家族については協力の有無だけでなく、実際に担える役割を具体的に整理する・ショートステイや訪問介護などは、介護者が限界に達してからではなく、利用可能な選択肢として早期から共有する
考察
本症例は、進行がんによる症状管理だけでなく、介護をほぼ一人で担っていた夫の抱え込みと、サービス導入のタイミングが大きな課題となった事例である。
介護熱心な家族は、一見すると介護力が高く、在宅生活を安定して支えられているように見えることがある。しかし、責任感が強いほど外部へ助けを求めることが遅れ、疲労が限界に近づくまで問題が表面化しない場合もある。そのため、現在介護できているかだけでなく、その状態を今後も継続できるかという視点で評価する必要がある。
また、終末期がん患者にとって、訪問診療への移行が「積極的な治療から見放されること」と感じられる場合がある。本症例では、自宅で疼痛管理や症状緩和を継続できることを具体的に説明し、医療とのつながりが続くことを理解してもらうことで導入につながった。
ケアマネジャーにとっては、本人の病状だけでなく主介護者の疲労や価値観を継続的に把握し、介護者が限界に達する前に支援を提案することが重要である。「家族ができるから任せる」のではなく、家族が無理なく支え続けられる範囲を見極め、不足する部分を医療・介護サービスで補うことが在宅療養継続の基盤となる。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科・病態・症状:がん・世帯構成:夫婦のみ
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多発肺転移、肝転移、腹膜播種を伴う上行結腸がんにより、全身倦怠感、食欲低下、がん性疼痛が進行した74歳女性に対し、通院負担の増大を契機として訪問診療を導入した事例である。本人は訪問診療への移行を「治療を諦めること」と受け止め、当初は抵抗感を示していた。また、夫は食事、服薬、排泄、入浴などの介護をほぼ一人で担い、支援を受けることにも消極的であった。在宅医療では疼痛管理や症状緩和を行うとともに、訪問看護、訪問介護、福祉用具を組み合わせ、夫の疲労状況や休息確保にも継続的に介入した。ケアマネジャーにとっては、介護力が高く見える家族ほど抱え込みを見逃さず、限界に達する前から段階的にサービスを導入することが重要となる症例である。
基本情報
年齢・性別:74歳・女性居住地:名古屋市瑞穂区世帯構成:夫婦のみキーパーソン:夫(同居)
保険・福祉情報
医療保険:国民健康保険3割介護保険:要介護3
診断名
・上行結腸がん・多発肺転移・肝転移・腹膜播種・がん性疼痛
導入の背景
体重減少を契機に精査を受け、上行結腸がんと診断された。手術後に化学療法を継続していたが、その後、多発肺転移、肝転移、腹膜播種を認めた。
複数の抗がん剤治療を継続したものの、病状の進行に伴って全身倦怠感や食事摂取量の低下がみられ、外来受診のたびに強い疲労を感じるようになった。
本人には、病院へ通院することで治療を継続したいという思いがあり、訪問診療への移行には当初抵抗があった。訪問診療を利用することで病院から見放されるのではないかという不安もみられた。
一方、同居する夫は食事の準備、服薬管理、排泄介助、入浴介助などをほぼ一人で担っていた。介護への責任感が強く、自身で対応できる限りは外部サービスを利用せずに支えたいという意向があったが、ケアマネジャーからは介護負担の増大が懸念されていた。
病状進行によって通院そのものが本人の大きな負担となったため、訪問診療は治療を中止するためのものではなく、自宅で必要な医療や症状緩和を継続するための方法であることを説明した。本人・家族の理解が得られ、在宅療養へ移行することとなった。
介入内容と経過
訪問診療開始時には、食欲低下、全身倦怠感、体重減少、がん性疼痛がみられ、腹膜播種に伴う腹部膨満感によって食事摂取量にも日ごとの変動があった。
定期的な訪問診療に加えて訪問看護、訪問介護、福祉用具を導入し、本人の症状管理と生活支援を多職種で行う体制を整えた。
病状の進行に伴って疼痛が増悪したため、オピオイドを導入し、症状に応じて調整した。本人・家族には効果や副作用について説明し、不安を確認しながら疼痛管理を進めた。また、必要に応じて点滴による症状緩和も行った。
同時に、夫の介護負担についても継続的に評価した。夫は自ら支援を求めることが少なかったため、訪問時には本人の状態だけでなく、夫の睡眠や疲労、介護の負担感についても確認した。
介護負担が過度に集中しないよう、訪問介護の活用、休息時間の確保、ショートステイの検討、別居する長男との役割分担などを提案した。
訪問診療導入後は、通院に費やしていた体力を自宅で過ごす時間に充てられるようになった。また、夫にとっても体調変化時に医療者へ相談できる窓口が明確となり、在宅療養を家族だけで支える状況から、多職種で支える体制へ移行することができた。
医療対応の詳細
主病
上行結腸がん(多発肺転移・肝転移・腹膜播種)
対応内容
・がん性疼痛の継続的な評価・オピオイドによる疼痛コントロール・食欲低下、全身倦怠感、腹部膨満感の評価・食事摂取量および栄養状態の確認・必要に応じた点滴による症状緩和・訪問看護と連携した全身状態の観察・訪問介護、福祉用具を含めた生活支援の調整・夫の介護負担および休息状況の確認・本人、夫への病状説明と療養方針の共有・長男を含めた家族内の役割分担の検討
医療処置
・オピオイドによる疼痛管理・点滴
支援のポイント
・介護を熱心に担っている家族ほど、本人から支援を求めない場合があるため、介護者の疲労や睡眠状況まで確認する・「まだ家族でできている」という状況でも、今後の病状進行を見据えて早期からサービス利用を検討する・訪問診療への抵抗がある場合は、本人が何を失うことに不安を感じているのかを確認する・訪問診療を治療中止と結び付けず、自宅で必要な医療を継続する方法として説明する・本人への医療だけでなく、主介護者の休息確保も在宅療養継続に必要な支援として位置付ける・別居家族については協力の有無だけでなく、実際に担える役割を具体的に整理する・ショートステイや訪問介護などは、介護者が限界に達してからではなく、利用可能な選択肢として早期から共有する
考察
本症例は、進行がんによる症状管理だけでなく、介護をほぼ一人で担っていた夫の抱え込みと、サービス導入のタイミングが大きな課題となった事例である。
介護熱心な家族は、一見すると介護力が高く、在宅生活を安定して支えられているように見えることがある。しかし、責任感が強いほど外部へ助けを求めることが遅れ、疲労が限界に近づくまで問題が表面化しない場合もある。そのため、現在介護できているかだけでなく、その状態を今後も継続できるかという視点で評価する必要がある。
また、終末期がん患者にとって、訪問診療への移行が「積極的な治療から見放されること」と感じられる場合がある。本症例では、自宅で疼痛管理や症状緩和を継続できることを具体的に説明し、医療とのつながりが続くことを理解してもらうことで導入につながった。
ケアマネジャーにとっては、本人の病状だけでなく主介護者の疲労や価値観を継続的に把握し、介護者が限界に達する前に支援を提案することが重要である。「家族ができるから任せる」のではなく、家族が無理なく支え続けられる範囲を見極め、不足する部分を医療・介護サービスで補うことが在宅療養継続の基盤となる。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科・病態・症状:がん・世帯構成:夫婦のみ
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