高齢者のうつ病と身体症状 治療とケアのポイント
2024/04/26 (Fri) 07:50
高齢者のうつ病と身体症状 治療とケアのポイント
高齢者うつの特徴
身体症状が目立ち、高齢者のうつ状態では、抑うつ気分が目に見えづらく、不眠や倦怠感、食欲不振、めまいなどが主な特徴です。口の中の不快感や食事の不満もあり、「食べ物がまずい」「口の中が苦い」といった感覚が続くこともあります。集中力や記憶力の低下も見られ、自責の念や罪業妄想が生じることもあります。貧困妄想による不安や焦燥感が生じ、不安定な行動や廊下での立ち尽くしなどが見られることもあります。これらの体験は患者に絶望感をもたらし、生活が困難になる場合があります。
重度のうつ病では、自立していた人が昏迷状態に至ることもあります。亜昏迷状態では全身状態の観察や支援が必要であり、不動の状態が廃用症候群を招き、血栓塞栓症などのリスクも考えられます。
うつ病の急性期に心がけること
うつ病の急性期では、心身の休息が必要です。気分には日内変動がみられることもあります。安易に病棟の日課のアクティビティケアに誘うことは控え、本人のペースで行動できるように配慮します。不安や焦りには、共感し、安易に励ますことはせず、安心して休養できるように療養環境を整えます。
内服治療では、効果を認められない場合に電気痙攣療法の適応になることもありますが、多くの患者は2剤、3剤と薬物調整が行われます。治療の効果には時間がかかることもあるので、あせらないように治療過程を理解しながら服薬ができるようなアドヒアランス(治療者と信頼関係を築きながら処方された薬を飲むという概念)も大切にする必要があります。
うつ病は、認知症と異なり、適切な治療によって多くの方の症状がゆっくりと回復していきます。しかし、反復性うつ病という診断もある通り、うつ状態は数か月から数年単位で再燃することもあるので、薬剤に頼るだけではなく、生活背景やライフイベントなどについても知り、ケアに活かせるとよいでしょう。
うつ病の回復期に心がけること
回復期には除々に活動範囲が広がります。早くよくなりたいとの思いが出てきますが、焦らず、無理をしないように見守る必要があります。また、回復期に自殺の危険性が高くなるともいわれています。自殺企図を入院前に起こしていた患者は、入院初期から自殺を予防する対策と情報共有を十分に行いますが、うつ病からの回復期にも、内面で抱えるつらさや悲観など、表出しきれない思いを察し、本人の負担を強めない距離感で安全を確保できるように見守ります。退院後の生活など、予期できる不安に対しては、本人の意思を尊重しながら解決策を提案するなど、退院の支援も行っています。
現実ではないことを信じ込んでしまうことを妄想といいますが、とくに幻視や幻聴は、現実以上のリアリティを感じることが多く、患者本人にとっては訂正不能な事実であると認識しています。幻覚妄想にもさまざまな個々によって異なる知覚や体験があります。ほとんどの患者は認知機能に障害は認めず、「ベランダに穴がたくさん空いているから、水がもれていく』「壁にも穴が空いていて、ふさがないと自分の考えが伝わってしまう」とか「サイバー攻撃を受ける」などと言い,穴をふさごうと懸命になる、黒いものが虫に見え、「指の爪のあいだからも黒い虫がでてくる」と、殺虫剤を大量に買い込んでまく方もおられます。また,音楽が聴こえてきて,時には大音量となるために、自宅や施設の居心地が悪くなることや、警察や近隣に苦情を言いにいくこともあります。1人暮らしの女性が、お金を近所の人に狙われているからと,コインランドリーに隠そうとしたこともあり、地域包括の職員によって妄想に気づかれたケースもあるようです。 これらの幻覚妄想は、入院という環境の変化のみで症状が消失することもありますし、薬物療法で軽減することもあります。私たちにとっては、現実には考えにくい内容であっても、本人にとっては不快な内容であることが多く、思者によっては食欲や活動意欲・体力が低下することで、脱水や肺炎などの身体合併症をきたすおそれもあります。
ケアのポイント
かかわり方としては、本人の困難を想像する姿勢で話を聞き、強く否定せずに適度に受け入れつつ、ゆっくりと現実や日課を案内するなど、幻覚妄想からひと時でも気分転換できるとよいでしょう。患者の心理的な側面に配慮し、患者のおかれた不安定な感情に対して、落ち着きを取り戻せるようなかかわりが必要です。生活上の支障や困難、混乱にいたっていないかを、病歴や生活歴、妄想の出現の経緯などをていねいに情報収集し、信頼関係を築きながら、本来の日常生活の遂行が可能かどうかを慎重に見極めましょう。
まとめ
高齢者の特徴を理解しながら、心理的な側面のみならず、身体的な変化にも注意が必要です。薬剤による影響、薬剤の服用による効果や副作用にも注意深く観察を行い、記録に残し、医師にタイムリーに報告・相談しましょう。
治療やケアのプロセスで可能な限り、家族の理解を確認しながら、長期的な療養生活の見立てや、終末期のケアについて考えることの支援もできるだけ早期から行えることが理想です。
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高齢者うつの特徴
身体症状が目立ち、高齢者のうつ状態では、抑うつ気分が目に見えづらく、不眠や倦怠感、食欲不振、めまいなどが主な特徴です。口の中の不快感や食事の不満もあり、「食べ物がまずい」「口の中が苦い」といった感覚が続くこともあります。集中力や記憶力の低下も見られ、自責の念や罪業妄想が生じることもあります。貧困妄想による不安や焦燥感が生じ、不安定な行動や廊下での立ち尽くしなどが見られることもあります。これらの体験は患者に絶望感をもたらし、生活が困難になる場合があります。
重度のうつ病では、自立していた人が昏迷状態に至ることもあります。亜昏迷状態では全身状態の観察や支援が必要であり、不動の状態が廃用症候群を招き、血栓塞栓症などのリスクも考えられます。
うつ病の急性期に心がけること
うつ病の急性期では、心身の休息が必要です。気分には日内変動がみられることもあります。安易に病棟の日課のアクティビティケアに誘うことは控え、本人のペースで行動できるように配慮します。不安や焦りには、共感し、安易に励ますことはせず、安心して休養できるように療養環境を整えます。
内服治療では、効果を認められない場合に電気痙攣療法の適応になることもありますが、多くの患者は2剤、3剤と薬物調整が行われます。治療の効果には時間がかかることもあるので、あせらないように治療過程を理解しながら服薬ができるようなアドヒアランス(治療者と信頼関係を築きながら処方された薬を飲むという概念)も大切にする必要があります。
うつ病は、認知症と異なり、適切な治療によって多くの方の症状がゆっくりと回復していきます。しかし、反復性うつ病という診断もある通り、うつ状態は数か月から数年単位で再燃することもあるので、薬剤に頼るだけではなく、生活背景やライフイベントなどについても知り、ケアに活かせるとよいでしょう。
うつ病の回復期に心がけること
回復期には除々に活動範囲が広がります。早くよくなりたいとの思いが出てきますが、焦らず、無理をしないように見守る必要があります。また、回復期に自殺の危険性が高くなるともいわれています。自殺企図を入院前に起こしていた患者は、入院初期から自殺を予防する対策と情報共有を十分に行いますが、うつ病からの回復期にも、内面で抱えるつらさや悲観など、表出しきれない思いを察し、本人の負担を強めない距離感で安全を確保できるように見守ります。退院後の生活など、予期できる不安に対しては、本人の意思を尊重しながら解決策を提案するなど、退院の支援も行っています。
現実ではないことを信じ込んでしまうことを妄想といいますが、とくに幻視や幻聴は、現実以上のリアリティを感じることが多く、患者本人にとっては訂正不能な事実であると認識しています。幻覚妄想にもさまざまな個々によって異なる知覚や体験があります。ほとんどの患者は認知機能に障害は認めず、「ベランダに穴がたくさん空いているから、水がもれていく』「壁にも穴が空いていて、ふさがないと自分の考えが伝わってしまう」とか「サイバー攻撃を受ける」などと言い,穴をふさごうと懸命になる、黒いものが虫に見え、「指の爪のあいだからも黒い虫がでてくる」と、殺虫剤を大量に買い込んでまく方もおられます。また,音楽が聴こえてきて,時には大音量となるために、自宅や施設の居心地が悪くなることや、警察や近隣に苦情を言いにいくこともあります。1人暮らしの女性が、お金を近所の人に狙われているからと,コインランドリーに隠そうとしたこともあり、地域包括の職員によって妄想に気づかれたケースもあるようです。 これらの幻覚妄想は、入院という環境の変化のみで症状が消失することもありますし、薬物療法で軽減することもあります。私たちにとっては、現実には考えにくい内容であっても、本人にとっては不快な内容であることが多く、思者によっては食欲や活動意欲・体力が低下することで、脱水や肺炎などの身体合併症をきたすおそれもあります。
ケアのポイント
かかわり方としては、本人の困難を想像する姿勢で話を聞き、強く否定せずに適度に受け入れつつ、ゆっくりと現実や日課を案内するなど、幻覚妄想からひと時でも気分転換できるとよいでしょう。患者の心理的な側面に配慮し、患者のおかれた不安定な感情に対して、落ち着きを取り戻せるようなかかわりが必要です。生活上の支障や困難、混乱にいたっていないかを、病歴や生活歴、妄想の出現の経緯などをていねいに情報収集し、信頼関係を築きながら、本来の日常生活の遂行が可能かどうかを慎重に見極めましょう。
まとめ
高齢者の特徴を理解しながら、心理的な側面のみならず、身体的な変化にも注意が必要です。薬剤による影響、薬剤の服用による効果や副作用にも注意深く観察を行い、記録に残し、医師にタイムリーに報告・相談しましょう。
治療やケアのプロセスで可能な限り、家族の理解を確認しながら、長期的な療養生活の見立てや、終末期のケアについて考えることの支援もできるだけ早期から行えることが理想です。
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