フレイルとサルコペニア
2024/02/15 (Thu) 07:50
フレイルとサルコペニア
団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け、単身高齢者世帯や高齢者夫・妻のみ世帯、認知症高齢者が増加していくことが予想されます。この超高齢社会の到来に備えて、介護が必要な段階や最期の期間でも、住み慣れた地域での安心・安全な暮らしを続けるためには、介護サポート体制の構築だけでなく、健康増進や虚弱予防がより早期から各地域で積極的に取り組まれる必要があります。
国が推進している介護予防・日常生活支援総合事業などの取り組みを通じて、市区町村を中心に、地域の実情に合わせた多様な主体が参画し、予防的な視点から様々な活動やサポートを充実させ、住民主体の地域支援体制を推進し、要支援者への効果的で効率的な支援を実現することが目指されています。
フレイルとは
フレイルとは、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態であり、要介護の要因として非常に重要です。
実際、フレイルの優位性を持つ高齢者では、日常生活機能障害や入院、転倒などの健康問題を認めやすく、同時に死亡率も高くなることが知られています。フレイルは高齢者の生命・機能予後の推定や包括的高齢者医療においても重要な概念です。
「フレイル」の日本語訳は、“加齢に伴って不可逆的に老化が進行した状態”という印象を与えがちですが、実際には適切な介入により予備能力や残存機能を回復させる可能性があるため、フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることで、生活機能の維持・向上が期待されます。
この新概念「フレイル」は、高齢者におけるよく見られる老年症候群として、以下の3つの要素によって説明されます。
中間の時期:健康な状態と要介護状態の間
可逆性:適切な介入により予備能力や残存機能を回復させることができる
多面性:身体の虚弱だけでなく、心理的・認知的な面や社会的な面も含めたフレイルが存在する
以上から、心身ともに健康で自立し続けるためには、多面的なフレイルに対するバランスの取れた評価や指導を含む積極的な介入が求められます。
フレイルの評価判断基準
健康寿命を実現させるために注目されている「フレイル」ですが、定義や診断基準については世界的にも多くの研究者により現在も議論が行われています。その中でも、Friedらが提唱した下記の基準が採用されることが多いです。この基準は5項目あり、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはプレ・フレイル(フレイルの前段階)であるとしています。
体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3~4日以上感じる
歩行速度の低下
握力の低下
身体活動量の低下
また、日本語版としてJ-CHSが考案されており、これによるフレイルの鑑別は新規の要介護認定の危険度などを予測しうると報告されています。
サルコペニア
サルコペニアとは、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候群を指します。この用語は、Irwin Rosenbergによって生み出された造語で、ギリシャ語で筋肉を表す「sarx (sarco)」と、喪失を表す「penia」を合わせた言葉です。
身体的フレイルの原因の1つとして、サルコペニアが注目されています。ヒトの筋肉量は30歳代から年間1~2%ずつ減少し、80歳頃までに約30%の筋肉が失われると言われています。このような筋肉量の減少は、個人差も大きいため、加齢とともに減少する傾向があるものの、一概には言えません。
サルコペニアの診断基準に関して、筋肉量の低下を必須項目とし、筋力の低下または身体能力の低下のいずれかが当てはまればサルコペニアと診断されます。2010年にはThe European Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP)により定義されていましたが、現在はAsian Working Group on Sarcopenia (AWGS)からもアジア基準が提案されています。
AWGSは筋力の低下と身体能力の低下、そして四肢筋肉量の有無によるステージ分類を提唱しています。また、サルコペニアの診断法としては、DXA法 (Dual-energy X-ray absorptiometry法) とBIA法 (bioelectrical impedance analysis) が主流です。
サルコペニアは一次性と二次性に分類されます。一次性は加齢以外に明らかな原因がないもので、二次性には基礎疾患や低栄養、生活不活発などが関与します。
サルコペニアを中心とするフレイル・サイクルでは、サルコペニアが進行すると安静時代謝が減少し、低栄養や体重減少につながります。この負の連鎖を早期に断ち切ることが重要です。
以上のように、サルコペニアはさまざまな弊害を引き起こしますが、特に転倒骨折や口腔サルコペニアによる低栄養などが重要な問題です。
フレイルに対する介入法
フレイルの本質的状態は恒常性維持機の低下と機能的予備能力の低下であり、その中心的病態は低栄養およびそれを背景としたサルコペニアです。フレイルは多面的な要因により発症するため、以下に示す様々なアプローチによる多面的な介入が必要です。
慢性疾患の管理
栄養管理(食の安定化と口腔機能の維持向上)
身体機能の回復(リハビリテーション)や積極的な運動
認知機能低下や抑うつを含む精神心理面への対応
社会参加を積極的に促す
上記を実現するための地域における通いの場など受け皿の体制準備
さらに、多剤併用 (polypharmacy) に注意し、かつワクチンなどによる感染予防に留意する必要もあります。
フレイル予防に資する今までの介入研究の結果はまだ十分とは言えませんが、中でも積極的な栄養介入と運動介人が歴史も長く、報告も多いです。Peterson らの報告によると、現時点でのフレイル予防に関する効果が検証された研究では、サルコペニアへの介入と同様、蛋白質とビタミンDの摂取を十分に行い、適切な運動を行うことが重要です。
サルコペニアの発症機序を考えてみると、筋萎縮は筋線維内の筋蛋白質量に依存しており、筋蛋白質の合成と分解のバランスに左右されます。筋蛋白質の合成(同化)は栄養、運動、ホルモン (インスリン、insulin-like growth factor 1 (IGF-1)) などにより誘導されることが数多く報告されています。したがって、最も重要な介入方法は十分な栄養(特に蛋白質、アミノ酸)と運動です。実際、栄養、特に蛋白質摂取量は日本の高齢者(70歳以上)で急激に低下することが知られています。特に高齢者では、蛋白質同化抵抗性(筋肉細胞で筋蛋白質の合成を誘導するには、成人よりも多くのアミノ酸が必要となる)という現象が行在します。よって、日本人の食事摂取基準(2015年度版)では成人に比較し、高齢者ではより多くの蛋白質摂取が求められます。具体的には、健康維持の目的ならば健常高齢者であっても最低1.0~1.2g/kg体重/日の蛋白質摂取が必要です。
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国が推進している介護予防・日常生活支援総合事業などの取り組みを通じて、市区町村を中心に、地域の実情に合わせた多様な主体が参画し、予防的な視点から様々な活動やサポートを充実させ、住民主体の地域支援体制を推進し、要支援者への効果的で効率的な支援を実現することが目指されています。
フレイルとは
フレイルとは、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態であり、要介護の要因として非常に重要です。
実際、フレイルの優位性を持つ高齢者では、日常生活機能障害や入院、転倒などの健康問題を認めやすく、同時に死亡率も高くなることが知られています。フレイルは高齢者の生命・機能予後の推定や包括的高齢者医療においても重要な概念です。
「フレイル」の日本語訳は、“加齢に伴って不可逆的に老化が進行した状態”という印象を与えがちですが、実際には適切な介入により予備能力や残存機能を回復させる可能性があるため、フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることで、生活機能の維持・向上が期待されます。
この新概念「フレイル」は、高齢者におけるよく見られる老年症候群として、以下の3つの要素によって説明されます。
中間の時期:健康な状態と要介護状態の間
可逆性:適切な介入により予備能力や残存機能を回復させることができる
多面性:身体の虚弱だけでなく、心理的・認知的な面や社会的な面も含めたフレイルが存在する
以上から、心身ともに健康で自立し続けるためには、多面的なフレイルに対するバランスの取れた評価や指導を含む積極的な介入が求められます。
フレイルの評価判断基準
健康寿命を実現させるために注目されている「フレイル」ですが、定義や診断基準については世界的にも多くの研究者により現在も議論が行われています。その中でも、Friedらが提唱した下記の基準が採用されることが多いです。この基準は5項目あり、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはプレ・フレイル(フレイルの前段階)であるとしています。
体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3~4日以上感じる
歩行速度の低下
握力の低下
身体活動量の低下
また、日本語版としてJ-CHSが考案されており、これによるフレイルの鑑別は新規の要介護認定の危険度などを予測しうると報告されています。
サルコペニア
サルコペニアとは、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候群を指します。この用語は、Irwin Rosenbergによって生み出された造語で、ギリシャ語で筋肉を表す「sarx (sarco)」と、喪失を表す「penia」を合わせた言葉です。
身体的フレイルの原因の1つとして、サルコペニアが注目されています。ヒトの筋肉量は30歳代から年間1~2%ずつ減少し、80歳頃までに約30%の筋肉が失われると言われています。このような筋肉量の減少は、個人差も大きいため、加齢とともに減少する傾向があるものの、一概には言えません。
サルコペニアの診断基準に関して、筋肉量の低下を必須項目とし、筋力の低下または身体能力の低下のいずれかが当てはまればサルコペニアと診断されます。2010年にはThe European Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP)により定義されていましたが、現在はAsian Working Group on Sarcopenia (AWGS)からもアジア基準が提案されています。
AWGSは筋力の低下と身体能力の低下、そして四肢筋肉量の有無によるステージ分類を提唱しています。また、サルコペニアの診断法としては、DXA法 (Dual-energy X-ray absorptiometry法) とBIA法 (bioelectrical impedance analysis) が主流です。
サルコペニアは一次性と二次性に分類されます。一次性は加齢以外に明らかな原因がないもので、二次性には基礎疾患や低栄養、生活不活発などが関与します。
サルコペニアを中心とするフレイル・サイクルでは、サルコペニアが進行すると安静時代謝が減少し、低栄養や体重減少につながります。この負の連鎖を早期に断ち切ることが重要です。
以上のように、サルコペニアはさまざまな弊害を引き起こしますが、特に転倒骨折や口腔サルコペニアによる低栄養などが重要な問題です。
フレイルに対する介入法
フレイルの本質的状態は恒常性維持機の低下と機能的予備能力の低下であり、その中心的病態は低栄養およびそれを背景としたサルコペニアです。フレイルは多面的な要因により発症するため、以下に示す様々なアプローチによる多面的な介入が必要です。
慢性疾患の管理
栄養管理(食の安定化と口腔機能の維持向上)
身体機能の回復(リハビリテーション)や積極的な運動
認知機能低下や抑うつを含む精神心理面への対応
社会参加を積極的に促す
上記を実現するための地域における通いの場など受け皿の体制準備
さらに、多剤併用 (polypharmacy) に注意し、かつワクチンなどによる感染予防に留意する必要もあります。
フレイル予防に資する今までの介入研究の結果はまだ十分とは言えませんが、中でも積極的な栄養介入と運動介人が歴史も長く、報告も多いです。Peterson らの報告によると、現時点でのフレイル予防に関する効果が検証された研究では、サルコペニアへの介入と同様、蛋白質とビタミンDの摂取を十分に行い、適切な運動を行うことが重要です。
サルコペニアの発症機序を考えてみると、筋萎縮は筋線維内の筋蛋白質量に依存しており、筋蛋白質の合成と分解のバランスに左右されます。筋蛋白質の合成(同化)は栄養、運動、ホルモン (インスリン、insulin-like growth factor 1 (IGF-1)) などにより誘導されることが数多く報告されています。したがって、最も重要な介入方法は十分な栄養(特に蛋白質、アミノ酸)と運動です。実際、栄養、特に蛋白質摂取量は日本の高齢者(70歳以上)で急激に低下することが知られています。特に高齢者では、蛋白質同化抵抗性(筋肉細胞で筋蛋白質の合成を誘導するには、成人よりも多くのアミノ酸が必要となる)という現象が行在します。よって、日本人の食事摂取基準(2015年度版)では成人に比較し、高齢者ではより多くの蛋白質摂取が求められます。具体的には、健康維持の目的ならば健常高齢者であっても最低1.0~1.2g/kg体重/日の蛋白質摂取が必要です。
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